« イースの都からハープの調べ | トップページ | with Casper & The Cookies JAPAN tour »

The Optimist's Club

20050815_047_2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

待てど来ず。

後部座席から聞こえてきた鼻にかかったハミング、ジェフ・ハンソンのメロディ。
あてもなく、行き当たりばったりでさまよったウィーンの街。

あのとき彼が、無茶で意味不明なドリンクをオーダーし、
その隙に僕がこっそりワイングラスを盗んだバーカウンター。

今僕は、そのバーカウンターでLLサイズのジンジャーエールを持て余している。
換気孔からなだれ込んできた午後の日差しは頭上のミラーボールに反射して、
予想外の角度から僕の視界に入り込む。
そして僕はその光を遮るように、手をかざす。

あれから8年の月日が流れた。
僕は毎年飽きずに、遅めの夏休みをスペインで過ごしている。
帰国する際はやはり、特急列車に乗りフランス経由で空港へ。
あの日の影響か、僕は気が向いた国で途中下車するようになった。
去年はドイツでフランクフルトを食べながら F・S・Blumm のライブを見て、
一昨年はフィンランドまで行き、湖みたいな温泉に夜が明けるまでつかった。
その帰りの車内では爆睡してしまい、あやうくシベリア鉄道に乗り入れるところだった。

そして今年は、アメリカで降りた。
帰宅するために乗った飛行機だったが、大西洋上空辺りで途中下車癖がうずき、
降りた先の空港は、ジョージア州アトランタ空港。

空港を出て、真っ先に目に入ったカフェに入り、コーヒーとシナモンロールを
テイクアウトする。
しばらくアトランタの街をぶらぶら歩き、通りすがりの老人に
「どこかいいライブハウスを知らないか?」
と尋ねてみた。

「アセンズって街の40Wattがいい。行ってみな。」

老人は吐いて捨てるように言い残し、歩き去っていく。
無愛想だが悪い人じゃなさそうだ。
僕はタクシーを呼びとめ、アセンズという街へ向かった。


40Watt内のバーカウンターで、僕は多すぎるミネラル・ウォーターを持て余す。
換気孔からなだれ込んできた午後の日差しは頭上のミラーボールに反射して、
予想外の角度から僕の視界に入り込む。
そして僕はその光を遮るように、手をかざす。

40Watt内には、まだスタッフしかいないようだった。
オープンしているのかも、定かじゃない。勝手に入ってきた僕を怪しむ暇もないように、
皆あっちへこっちへ忙しそうに働いている。
店内には、まだBGMすら流れていない。

ふとバーカウンターの奥に目をやると、薄いピンクのネクタイ、黒ブチメガネを
かけた栗毛の男が、カウンターであくせく働く店員に話しかけている。

「ねえ、君。君をこのライブハウスでいちばんのDJ と見込んで、頼みがあるんだ。」

「DJ は趣味程度な僕ですが。あなたのお力になります。」

「音楽が流れてないライブハウスって、どう思う?まるで腐った肉か、
開かないパラシュートだ。どちらもあの世行きだね。何かこう、イカした音楽を
かけてくんないかな。そうだな、テーマは「お化けとクッキー」がいい。
お化けの目はパッチリとした二重で、ちっちゃなえくぼが魅力的。大学を卒業後は
国際ミドリ十字に就職して水質汚染に苦しむ何百万もの人を助けるため、発展途上国で水処理事業に参加しながら、夜はクッキーをこっそり枕元に置くいたずらをしてる。
趣味は社交ダンスとヨガを少々。「子供は多すぎない程度で。」と希望している。
そんなハッピーなやつ、かけてくれよ。」

唖然とする店員。とりあえずCD棚に目を向けてみる。
今にも泣きそうな顔をしたその店員は、店長に相談しに行った。

しばらくして、店の奥から店長らしき男が出てきた。
70歳くらいだろうか。ムスッとした表情の老人。
その店長の背後には、さっきの店員。

「The Optimist's Club に行きな。キャスパー&ザ クッキーズってバンドがいる。」

老店長はそういい残し、店の奥へと消えていった。

「・・・。なんだあのジイさん・・・。そのなんとかクラブって、ライブハウスなのか?」

「さあ・・。言葉足らずな上に無愛想ときてるから、よく誤解されるんですよ。悪い人じゃないんですけどね。まあ、必ず街に1人はいる頑固な爺さんですよ。」

と話している矢先に、老店長が再び奥からやってきた。
ぎょっ、とする彼ら。
老店長は店員のポケットにメモらしき紙を押し込み、何も言わず奥へと消えていく。

「・・・。」

老店長の後ろ姿を無言で眺める店員と黒縁メガネの男と、僕。
店員はくしゃくしゃになったメモを取り出し、読んでみる。

「まったく・・・。ほんと人見知りなんだから。そんじゃ僕が店長の代わりに
読みますね。こう書いてます。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「The Optimist's Club のキャスパー&ザ クッキーズ」

ビートルズやビーチボーイズの実験性に魅了され、
ロックパイルやエルビス・コステロを彷彿させるメロディセンスを持ち、
XTCのようなニューウェーブ・ダンススタイルを取り入れ、
テレビジョンのようにシンプルで尖ったギターリフで押し迫る。
他には類を見ない、アメリカのインディーパワーポップバンド。

ボーカルのジェイソン・ネスミスは、クラシックやジャズにまで
興味を持つ特異な音楽性を持ち、モンティ・パイソンにでも出てきそうな
「舞台俳優」的ルックス。彼の奥さんは、同バンドのベーシストである
ケイ・ステーション。彼女がリードボーカルを取る「Krotenwanderung」は、
Optimist's Clubを代表するクールでイカした曲。

ギターのジム・ヒックスは左右に立派なもみあげをたくわえた、
ちょいエルビス・プレスリー的な風貌。彼のギターアクションは
アメリカン!的な派手さ。しかし彼のスゴイところは、派手な
アクションの中でも繊細なギタープレイが出来るところ。
彼が叩くタンバリン姿は超必見。

ジョー・ロウのドラムはタイトにして時に大胆&歌心がある。
彼のハイハットさばきは要注目。ピンクのかつらもよく似合う。
時々、マイクを持って彼がリードボーカルをとる曲もあり。

追伸 : 参考までに、Optimist's Clubの外観の写真でも。

Casper_001

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「以上です。こんなに長々と書くんだったら、話したほうが早いのに。」

「いや、どうやら見た方が早そうだ。サンキュー店員くん。ほんとはこれから
日本に行く予定なんだけど、フライトまでまだ時間はあるな。
早速その「The Optimist's Club」に行くことにするよ。」

彼はチップをカウンターに置き、席を立つ。

「じゃあね。いろいろありがとう。あの店長にもよろしく伝えといて。」

「はい。また来てくださいね。ああ見えて、店長はこの街いちばんの
DJ なんですよ。」


彼は40Wattから出て行った。
その後ろ姿を眺める僕。
すると僕の途中下車癖は、僕を Optimist's Club へと向かわせた。

僕はOptimist's Clubのバーカウンターに座り、キャスパー&ザ クッキーズのライブを
見ながら、LLサイズのストレンジでポップな音楽に酔いしれた。
黒縁メガネの彼は、フロアの前方で楽しそうに踊っている。
日本行きのフライト時間は、もうとっくに過ぎていた。


10_04_6_3

|

« イースの都からハープの調べ | トップページ | with Casper & The Cookies JAPAN tour »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。