That Summer Feeling
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真夏のブラジル。
うっそうとした熱帯雨林の奥深く、ひっそりとたたずむ古い屋敷の裏庭。
「皆さま、お足元の悪い中、お集まりいただきありがとうございます。
私事で恐縮ですが、私は現在追われる身でして。訳あって逃亡生活を続けております。さて、集まってもらったのは他でもありません。皆さまにぜひ、見ていただきたい品があるのです。おっとその前に、ミルクティーでもいかかですか?」
「それはありがたい、いただこう。ん?ちょっと大きすぎやしないかね、このカップ?」
「ミルクティーはたっぷりありますよ。しかし私たちに時間はあまりありません。
当局の人間がもうすぐここを嗅ぎ付けるでしょう。さて、皆さまに見てもらいたいのは・・・。」
彼が奥の部屋から持ってきたのは、1本のエレキギターと、1本のエレキベース。
「このギターは、アメリカから密輸入したものです。こっちのベースはイギリスから。
いやあ、ほんとヒヤヒヤものでした。こんなの持ってるところを見つかったら、刑務所行きですからね。」
一同、興味深そうにその楽器を見つめる。
「この楽器、みなさんがよくご存知のギターやベースとは、一味違うんです。
「電気」で鳴らすのです。Electricですよ。そうだ、ムタンチスでギター弾いてるあなた、ちょっと鳴らしてみませんか?さあ、遠慮なさらず。どうぞどうぞ!」
彼、エレキギターをかつぎ、鳴らしてみる。
「デケデケデケデーン!」と、鳴る。
「そうそう、その感じ、いい感じですね。あなたにとっておきのレコードがありますよ。皆で聞いてみましょう。
これはイギリスのザ・ビートルズというバンドで、曲は「Revolution」ってやつを。」
「♪///♪///♪」
エレキギターから始まる、「Revolution」のイントロ。
革命を起こしたいんだって?
いいかい、みんな世界を変えたがってるんだ
君は発展だって言うんだね
いいかい、みんなは世界を変えたがってるんだ
でも破壊的な話になったら 僕を仲間に入れないでくれよ
大丈夫だよ きっと良くなるさ
「はい、聞いていただいたのは「Revolution」でした。向こうの国では、「ロック」と呼ばれている音楽だそうです。
このご時勢、こんなの聞いてたら絞首刑かもしれないですね。とってもじゃないが、まだ日が明るい間は聞けないですね。
夜が更けた今、こっそり聞いて楽しみましょう。さて、続いては同じくイギリスのバンド、ザ・ローリングストーンズです。曲は、「Satisfaction」!ってやつを。 そう、私達は満足することができないんですよ。どうですか?ジルさんにカエターノさん。ボサノバもいいですけど、たまにはこんなイカしたFUZZギターなんて。さあ、どんどんいきますよ、次はアメリカのバンドで、曲は、・・・・・・。」
一同はミルクティーを飲みながら、耳慣れない異国の音楽に聞き入り浸る。
深夜のパーティーは、深く深く続く。
皆でエレキギター、エレキベースを手に取り、皆で代わるがわる演奏し、
自分達の持ち曲をアレンジしたり、新しい曲を作ったり。
この逃亡者のDJは、夜明けまで続く・・・。
そして夜は明け、朝日が昇ってきた。
「さてみなさん。もうパーティは終わりです。どうでしょう、せっかくなので皆で記念写真でも撮りませんか?
さあさあみなさん、集まって!あら、あなた。まだミルクティー飲んでいるのですか?
それじゃあ、そのカップは持ったままでいいですよ。はい、準備はいいですか、みんないい顔してますか?では行きますよ、せぇ~の、はい、トロピカリア!」
「カシャッ!」 とシャッターが下りる音。
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ここは真夏の東京。駒場東大前の森の中。古びた校舎の前に集まった人々。
「皆さま、このお暑い中、お集まりいただきありがとうございます。
私事で恐縮ですが、私は現在追われる身でして。訳あって逃亡生活を続けております。さて、集まってもらったのは他でもありません。皆さまにぜひ、聞いていただきたい品があるのです。おっとその前に、ミルクティーでもいかかですか?」
「いいね、一杯貰おうかな。ん?ちょっとデカくない?このカップ。」
「ミルクティーのおかわりなら、いつでも言ってください。でも今日は、もっといいものがあるのです。その昔、ブラジル音楽に新しいムーブメントを起こしたミュージシャン達がいました。当時のブラジル音楽に満足できなかった彼らは、「トロピカリア」というアルバムを作ったんです。いわゆる、社会に対するアンチテーゼ的な、とでも言いましょうか。
彼らは「禁止することを禁止する」ことにしたのです。そんなアルバムを今日は持ってきました。早速、皆で聞きましょう。ではまず、ムタンチスというバンドから。
この曲にはジルベルト・ジルやカエターノ・ベローゾって人達も参加してますよ。
ではいきましょう。曲は「PANIS ET CIRCENCIS」ってやつを!
おっと、でもその前に。せっかくなので、皆で記念写真でも撮りませんか?」
逃亡者のDJは、今日もどこかで誰かのところへ。
カメラを手に、あの夏の感じを伝えに出かける。